AI を使った開発で、アプリを作るハードルは大きく下がりました。これからは、AI CoE(AI の推進組織)が外注費を棚卸しし、内製で削減して効果を出す時代です。
AI CoE の全体像(本部と事業部の分け方、5 つのステップ、読む記事の順番)は、こちらにまとめました。
AI CoE のジャーニー ― 本部と事業部に分かれ、予算を持つ部門で外注費を内製で減らすAI CoE の概要と、これからの形をまとめます。本部 AI CoE が標準と基盤を持ち、事業部 AI CoE が自分の予算に載っている外注費を内製で減らす。JUAS・IPA・Gartner の調査結果と図で、AI CoE のジャーニーと、担当者が読む記事の順番を紹介します。
この記事では、AI CoE が最初に何をすべきかを、私の考えとしてまとめます。結論は 1 つです。
現場のユースケースから始めない。外注費の棚卸しから始める。
- なぜ「現場の声を聞く」から始めると、うまくいかないのか
- 日本企業に「外注費の削減」が合う理由
- どの外注費を棚卸しし、どれから内製するのか
- AI 駆動開発と開発標準で、品質を自社で担保する方法
- 削減額を経営に見せ、AI 活用を経営の議題にする
現場のユースケースから始めると、なぜうまくいかないのか
AI の取り組みを始めるとき、まず「現場のユーザーからユースケースを聞く」ことがよくあります。現場の声に耳を傾けるので、正しいやり方に聞こえます。
でも、ここから始めるのは間違いだと私は考えています。
- 現場から出てくるのは、日々の小さな困りごとです。1 つ 1 つの効果が小さく、数字で示しにくいです。
- 効果が BS・PL(貸借対照表・損益計算書) に表れないので、経営の議題になりません。
- 議題にならないので、予算も人もつかず、取り組みが広がりません。
経営は、コストの効果で判断します。BS・PL に表れるかどうかです。現場の改善ももちろん大事です。ただ、それだけでは優先順位が下がってしまいます。
日本企業に合うのは「外注費の削減」
AI で業務を効率化しても、日本企業では人を減らすことは簡単ではありません。雇用を守る労働法制と慣行があるからです。「AI で人件費を減らす」という効果は、数字にしにくいのです。
そこで目を向けるのが外注費です。外注費は、内製に切り替えた分だけ、そのまま PL の費用が減ります。人を減らさずに、確かなコストの効果を出せます。

棚卸しする外注費
| 外注費の種類 | 例 |
|---|---|
| コンサルティングの費用 | 要件定義を外部のコンサルに頼んでいる |
| SaaS の利用料 | 一部の機能しか使っていないのに、毎年払っている SaaS |
| 既存システムの保守・運用の委託 | 小さな改修のたびに外部に見積もりを取っている |
| セキュリティの見直し | オンプレミスで、セキュリティの状態があいまいなシステム |
| インフラの入れ替え | サーバーやソフトウェアのサポート終了(EOS)で、入れ替えが必要なシステム |
| 新しいシステムの開発 | 外部に見積もりを取ったら 1,000 万円かかる、と言われたシステム |
このリストは、現場ではなく情報システム部門にある
ポイントは、このリストが現場から出てくるものではないことです。
既存のシステムの一覧や、新しく導入を検討しているシステムの一覧は、情報システム部門や、システムの導入を検討している部門が管理しています。契約の更新日や、保守の費用、見積もりの金額もそこにあります。
AI CoE が最初にやることは、このリストを手に入れることです。
内製するものを選ぶ
リストを手に入れたら、AI CoE が内製で作れるものを選びます。いきなり全部をやるのではなく、順番を決めます。
flowchart LR A[外注費の一覧を<br>情報システム部門から入手] --> B[AI CoE が<br>内製できるものを選ぶ] B --> C[優先順位 1 を<br>自分たちで作る] C --> D[削減額を<br>経営に見せる] D --> E[対象を広げる]
優先順位 1 の条件
最初の 1 件は、次の条件をできるだけ満たすものにします。
- 短い期間で作れる
- 難しくない
- ほかのシステムとのつながりが少ない
- データの移行が簡単
- コストのメリットがはっきりしている(外注の見積もりや、SaaS の年額が分かっている)
「コストをかけてでもやるべき」ものを選ぶ
内製にも、ライセンスや人の時間のコストがかかります。それでも外注費より安く、早くできるものを選びます。選んだものは、AI CoE が予算を使ってでも進める価値があります。
買っているシステムを作り直す(SaaS 製造)ときのポイント
一覧に SaaS や委託のシステムがあれば、自分たちで作り直して置き換える SaaS 製造の候補です。対象を選ぶときは、次の点を見ます。
- 業務システムの層を選ぶ:組織で使っている業務システムが対象です。基幹系と法令対応のシステムは、監査の観点から最初は外します。
- そもそも Cowork で済まないか:個人の生産性のための仕事は、アプリを作らず Cowork に任せます。
- 1 つ目は全社で使うもの:Power Apps Premium は人に付くライセンスなので、1 つ目で買った Premium が 2 つ目以降の土台になります。
- 置き場所と守りはプラットフォームに任せる:GitHub Copilot で作ったアプリを Code Apps で動かせば、ログイン・データへの接続・DLP を Power Platform が受け持ちます。
同心円の分類図、コストの試算の考え方、CRM を作り直す例は、こちらにまとめました。
Code Apps で「SaaS 製造」― 買っているシステムを作り直してコストを下げる試算の考え方毎年払う SaaS の利用料や委託の保守費を、GitHub Copilot と Power Apps の Code Apps で作ったアプリに置き換える「SaaS 製造」。対象にするシステムの見分け方、インフラと守りを任せられる理由、最近の Web の侵害、Premium を土台にしたコストの試算と KPI の優先順位を、グラフと例で紹介します。
AI 駆動開発と開発標準で、品質を自社で担保する
内製で一番心配されるのは、品質とセキュリティです。ここで効くのが、自社の開発標準を持ち、それに沿って AI に開発させるやり方です。
これまで、外注したシステムは次のような手順で品質を確かめていました。
- セキュリティのチェックシート
- 品質のチェック
- リリース前の審議会での確認
これらの中身を、開発標準として先に書いておき、AI がそれに沿って作るようにします。そうすれば、毎回のチェックの観点が最初から作り込まれた状態で、品質の高いアプリを作れます。
私は、このための開発標準とスキルを GitHub で公開しています。開発は、開発標準のカスタムエージェント @GeekPowerCode に、作りたいものを伝えるのが基本です。必要なスキルが選ばれ、設計・Dataverse・画面・デプロイまで、標準に沿って進みます。これを土台にすると、AI 駆動開発を自社の標準に合わせて始められます。準備から使い方、AI CoE が「自社の標準」としてコピーして持つ方法までは、こちらにまとめました。
AI ファースト開発標準で始める Code Apps 開発 ― 外注費の削減を内製で実現する手法(2026 年 10 月版)GitHub で公開している AI ファースト開発標準を、2026 年 10 月の内容で解説します。「クイックスタートして」から始める開発の流れ、27 のスキルと 20 の業務サンプル、管理者と開発者の準備、AI CoE が自社の標準として持つ方法を、外注費の削減・Code Apps とのつながりとあわせて図で紹介します。
ライセンスのコストも見込む
AI 駆動開発で作る Power Apps の Code Apps は、使う人に Power Apps Premium のライセンスが必要です。Microsoft 365 に含まれる範囲で作るアプリより、費用がかかります1。
なので、どんなアプリにも使うわけではありません。外注費や SaaS の費用と比べて、ライセンスの費用を払っても削減になるものを選びます。これが、最初に棚卸しをする理由でもあります。
Power Apps ライセンスの選び方ガイド(2026 年版)Power Apps のライセンスは 「どのアプリ種別(キャンバス / モデル駆動 / Code Apps)」 と 「どのデータソースを使うか(SharePoint / Datav…
どの道具でどの仕事を変えるか、GitHub Copilot・Cowork・Copilot Studio・Agent Builder の使い分けはこちらにまとめました。
GitHub Copilot・Cowork・Copilot Studio・Agent Builder の使い分け ― ユースケース × インパクトのロングテールで考える「どれを使えばいいのか」は、ユースケースの数とインパクトのロングテールで考えると整理できます。少数で大きな効果を出す GitHub Copilot と Code Apps、個人の仕事を任せる Cowork、組織で共有する Copilot Studio、少量多品種の Agent Builder。判断の分かれ目をまとめます。
まず自分たちで作り、肌感覚をつかむ
優先順位 1 のアプリは、まず AI CoE が自分たちで作ってみます。
一番大事なのは、自分たちがどれぐらい作れるのかの肌感覚をつかむことです。どれぐらいの期間で、どれぐらいの品質のものが作れるのか。これが分かると、次にどの外注費を内製に切り替えられるかを判断できます。
削減額を経営に見せる
作ったら、外注費がどれだけ下がったかを経営に見せます。
- 外注していた場合の費用(見積もり、SaaS の年額、保守の費用)を出します。
- 内製にかかった費用(ライセンス、人の時間)を出します。
- その差を、削減額として BS・PL の言葉で示します。
コストの効果が見えると、AI の活用が経営の議題になります。予算と人がつき、対象を広げられます。
さらに、「AI を使って内製でコストを下げている会社」として社外に発信できます。採用や取引先からの評価にもつながります。
まとめ:すべての企業が、すでにソフトウェアの会社になった
- AI CoE の最初の KPI は、外注費の削減です。
- 現場のユースケースから始めず、情報システム部門が持つ外注費の一覧から始めます。
- 優先順位 1 は、短期間で作れて、つながりが少なく、移行が簡単で、コストのメリットがはっきりしたものです。
- 自社の開発標準に沿って AI に作らせ、品質とセキュリティを担保します。
- まず自分たちで作って肌感覚をつかみ、削減額を経営に見せます。
AI の時代になり、すべての企業が内製できる会社、つまりソフトウェアの会社になりました。そのことを自覚して、考え方を変えるときです。
内製を進めると、これまでのパートナー企業との関係も変わります。何を頼み、どう組むかは、こちらにまとめました。
AI CoE の内製化で、パートナー企業はどうすればいいのか ― 人月から「顧問」へユーザー企業の AI CoE が内製を始めると、多重下請けと人月のビジネスは縮みます。一方で、AI CoE の立ち上げ支援、Cowork スキルハッカソン、レビューや保守の「顧問」のビジネスが生まれます。FDE との違い、フルスタックビルダー、サブスクリプションの指標を図と例で紹介します。
業務の課題を見つけるところから学びたい方には、こちらの講座がおすすめです。
Power Platform licensing FAQs(Microsoft Learn) ↩
メルマガで新しい記事を受け取る
新しい記事や講座のお知らせを、メールでお届けします。いつでも配信を停止できます。
ご登録いただいたアドレスは、メルマガの配信にだけ使います。
あわせて学びたいオンライン講座
どの講座から始めればよいか、学ぶ順番をまとめています。






コメントを残す