AI CoE のジャーニー ― 本部と事業部に分かれ、予算を持つ部門で外注費を内製で減らす

本部 AI CoE と事業部 AI CoE がつながり、外注費を内製で減らしていくイメージ

AI の推進組織 AI CoE(AI Center of Excellence)を作る会社が増えています。ただ、「作ったけれど、何から始めればいいか分からない」という声もよく聞きます。

この記事では、AI CoE のこれからの形と、その歩み(ジャーニー)を、外部の調査結果と図でまとめます。私は、これからの AI CoE は本部 AI CoE と事業部 AI CoE に分かれ、それぞれが予算を持つ部門の外注費を、内製で減らしていく形が重要になると考えています。最後に、AI CoE の担当者が読む記事の順番も紹介します。

  • AI CoE とは何か、何をする組織か
  • 調査から見える、AI と内製化のトレンド
  • 本部 AI CoE と事業部 AI CoE の役割の分け方
  • AI CoE のジャーニー(5 つのステップ)
  • AI CoE の担当者が読む記事の順番

AI CoE とは

AI CoE は、会社の中で AI の活用を進め、支える専門の組織です。決まった形はありませんが、次のような役割を持ちます。

役割 中身
戦略と KPI 何のために AI を使うか、何で成果を測るかを決める
ガバナンス 使ってよい道具、データの扱い、権限、コストの上限を決める
標準と基盤 開発の標準、環境、ライセンス、共通の部品を用意する
人材育成 使う人・作る人を育てる
内製開発 自分たちでアプリやエージェントを作り、効果を出す

これまでの AI CoE は、最初の 3 つ(戦略・ガバナンス・標準)が中心でした。これからは、最後の「内製開発」で、お金に見える効果を出すことが求められます。

調査から見える、AI と内製化のトレンド

外部の調査から、いくつかの数字を紹介します。

数字で見る AI と内製化のトレンド JUAS の企業 IT 動向調査 2026 では、コード系の生成 AI を導入済みの企業が 32.6%、AI 関連の投資と利用料の増加を IT 予算が増える理由に挙げた企業が 43.7%、内製と外部委託の使い分けを目指す企業が約 7 割。IPA の DX 動向 2025 では、DX を進める人材が足りない日本企業が 85.1%、人材育成をとくに支援していない企業が 36.6%。Gartner の調査では、AI の成熟度が高い組織の 91% が AI の専任のリーダーを置いている。 32.6% コードを書く生成 AI を導入済み 前年度から 10 ポイント以上増(JUAS) 43.7% IT 予算が増える理由に「AI 関連」 2026 年度の予測(JUAS) 約 7 割 内製と外部委託の使い分けを目指す 課題は開発・PM の人材の不足(JUAS) 85.1% DX を進める人材が足りない 日本企業。米国・ドイツより高い(IPA) 36.6% 人材育成を「とくに支援していない」 日本企業。米国は 1.0%(IPA) 91% AI の専任のリーダーを置いている AI の成熟度が高い組織(Gartner)
  • AI への投資は増えている:言語系の生成 AI を導入済みの企業は 33.9%(試験導入を含めると 53.4%)で、IT 予算が増える理由に「AI 関連の投資・利用料」を挙げた企業は 43.7% です1。
  • コードを書く AI が広がっている:コード系の生成 AI の導入は 32.6% で、前年度から 10 ポイント以上増えました1。
  • 内製と外部委託の使い分けへ:約 7 割の企業が内製と外部委託の使い分けを目指していますが、開発やプロジェクト管理の人材の不足が課題です1。
  • 人は足りず、育成も追いついていない:DX を進める人材が足りないと答えた日本企業は 85.1%。人材育成を「とくに支援していない」企業は 36.6% で、米国の 1.0% と大きな差があります2。
  • 専任の組織とリーダーが成果を分ける:AI の成熟度が高い組織の 91% は AI の専任のリーダーを置き、45% は AI の取り組みを 3 年以上本番で使い続けています(成熟度が低い組織は 20%)3。
  • 一方で、価値を出せている会社はまだ少ない:AI で大きな価値を出せたと答えた CIO は 13% にとどまります4。

つまり、AI への投資は増え、コードを書く AI も広がっている。でも、作る人は足りず、価値もまだ見えていない。この隙間を埋めるのが、AI CoE の内製開発です。コードを書く AI を使えば、少ない人数でも内製できます。そして、効果を外注費の削減というお金の言葉で示せば、価値が見えます。

本部 AI CoE と事業部 AI CoE に分かれる

AI CoE を 1 つの組織に集めると、全社の依頼が集中して動けなくなります。逆に、各部門がばらばらに進めると、道具や品質がそろいません。

そこで、本部 AI CoE と事業部 AI CoE の 2 段にします。本部が標準と基盤を持ち、事業部が自分たちの予算で内製を進める形です。

本部 AI CoE と事業部 AI CoE 中央の本部 AI CoE が、開発標準・ガバナンス・ライセンスと環境・人材育成・全社のアプリを受け持つ。周りの営業・管理部門・製造などの事業部 AI CoE が、それぞれの予算に載っている外注費を棚卸しして、本部の標準で内製し、削減額を自部門の成果にする。 本部 AI CoE 開発標準・ガバナンス ライセンスと環境 人材育成・相談窓口 全社で使うアプリ KPI:全社の外注費の削減 事業部 AI CoE(営業) CRM・日報の SaaS の利用料 → 内製で作り直す 削減額は営業の予算に 事業部 AI CoE(管理部門) 問い合わせ受付の保守の委託 → 内製と Cowork に置き換える 削減額は管理部門の予算に 事業部 AI CoE(製造) 設備保全・品質検査の委託開発 → 内製で作る 削減額は製造の予算に 事業部 AI CoE(ほかの部門) それぞれの外注費の一覧 → 本部の標準で内製 削減額はその部門の予算に
本部 AI CoE 事業部 AI CoE
主な担当 情報システム部門や DX 推進の部門 事業部の企画・業務改善の担当
持つもの 開発標準、ガバナンス、ライセンスと環境、共通の部品 業務の知識、自部門の外注費の一覧と予算
すること 標準を整えて配る、人を育てる、全社で使うアプリを作る 自部門の外注費を棚卸しし、本部の標準で内製する
KPI 全社の外注費の削減額、標準を使うチームの数 自部門の外注費の削減額

なぜ「予算を持つ部門」で削るのか

外注費は、その費用を払っている部門の予算に載っています。SaaS の契約も、保守の委託も、決めるのは予算を持つ部門です。

だから、外注費を削るのは、その予算を持つ部門が自分でやるのがいちばん早いのです。本部がいくら標準を整えても、事業部の契約は止められません。事業部が自分で内製し、削った分が自分の予算の成果になれば、続ける理由がはっきりします。

本部 AI CoE は、そのための「道具と型」を配ります。開発標準、環境、ライセンス、育成です。事業部 AI CoE は、その型を使って、自分の業務と予算で成果を出します。

1 つ目は本部、2 つ目からは事業部

最初のアプリは、本部 AI CoE が全社で使うものを作ります。Power Apps Premium は人に付くライセンスなので、ここで配った Premium が、事業部のアプリの土台になります。2 つ目からは、事業部 AI CoE が自分の外注費から選んで作ります。

AI CoE のジャーニー

AI CoE の歩みを、5 つのステップで描きます。

AI CoE のジャーニー ステップ 1 は本部 AI CoE を立ち上げて Cowork を開放する。ステップ 2 は外注費を棚卸しする。ステップ 3 は開発標準でプロトタイプを作り経営に説明する。ステップ 4 は全社で使う 1 つ目のアプリを Code Apps で展開する。ステップ 5 は事業部 AI CoE に広げ、それぞれの予算で内製する。 1 2 3 4 5 本部 本部 本部 本部 本部+事業部 立ち上げ 本部 AI CoE を作る Cowork を開放する 個人の仕事は任せる 棚卸し 外注費の一覧を 情報システム部門から 業務システムを選ぶ プロトタイプ 開発標準と GitHub Copilot で作る 削減額を経営に説明 1 つ目の展開 全社で使うアプリを Code Apps で展開 Premium が土台に 事業部へ広げる 自社の標準を配る 事業部が自分の予算で 外注費を減らす KPI の順番:① 外注費の削減 → ② 使いやすさ・業務の改善 → ③ 内製の技術・開発の生産性 → ④ 人材育成 ① で予算と人を確保し、その上に ②〜④ を積む
  1. 立ち上げ:本部 AI CoE を作り、まず Copilot Cowork を開放します。個人の調べものや資料づくりは、アプリを作らずに Cowork に任せます。コスト管理の設定だけで始められます。
  2. 棚卸し:情報システム部門から、外注費の一覧(SaaS の契約、保守の委託、見積もり)を手に入れます。基幹系と法令対応のシステムは外し、業務システムから候補を選びます。
  3. プロトタイプ:GitHub Copilot と AI ファースト開発標準で、経営に説明するためのプロトタイプを作ります。外注費の削減額を、1 番目の KPI として示します。
  4. 1 つ目の展開:全社で使うアプリを、Code Apps で展開します。インフラとその保守は Microsoft に任せ、ここで配った Power Apps Premium が、次のアプリの土台になります。
  5. 事業部へ広げる:開発標準を「自社の標準」として事業部に配ります。事業部 AI CoE が、自分の予算に載っている外注費を、自分で内製して減らします。

AI CoE の担当者が読む記事の順番

このブログには、AI CoE の担当者向けの記事がいくつかあります。読む順番は、次のとおりです。

順番 記事 分かること 主な読者
1 AI CoE の最初の KPI は「外注費の削減」 なぜ現場のユースケースではなく、外注費から始めるのか 本部・事業部
2 GitHub Copilot・Cowork・Copilot Studio・Agent Builder の使い分け どの道具でどの仕事を変えるか(ロングテールの図) 本部
3 Copilot Cowork のコストは賄えるのか 個人の仕事を Cowork に任せる始め方と、費用の考え方 本部
4 Code Apps で「SaaS 製造」 対象のシステムの選び方、インフラを任せられる理由、コストの試算 本部・事業部
5 AI ファースト開発標準で始める Code Apps 開発 開発標準での作り方、自社の標準として持つ方法 本部(作る人)
6 Copilot Credits のライセンスガイドを読み解く Cowork や Copilot Studio の費用の仕組み 本部(管理者)
7 AI CoE の内製化で、パートナー企業はどうすればいいのか パートナー企業との組み方(FDE か内製の支援か、顧問の形) 本部・パートナー企業
8 相次ぐ個人情報漏えいから考える ID 管理を Entra に任せる、事例から作るテストケース、主権を取り戻す 本部(標準とセキュリティ)

1. なぜ外注費から始めるのか

AI CoE の最初の KPI は「外注費の削減」― 現場のユースケースから始めないAI を使った開発で、AI CoE は自社でアプリを作れるようになりました。最初にやるべきことは、現場からユースケースを集めることではありません。外注費を棚卸しし、内製できるものから削減額を経営に見せることです。2026.10.27AI CoE が内製で外注費を減らすイメージ

2. どの道具で、どの仕事を変えるか

GitHub Copilot・Cowork・Copilot Studio・Agent Builder の使い分け ― ユースケース × インパクトのロングテールで考える「どれを使えばいいのか」は、ユースケースの数とインパクトのロングテールで考えると整理できます。少数で大きな効果を出す GitHub Copilot と Code Apps、個人の仕事を任せる Cowork、組織で共有する Copilot Studio、少量多品種の Agent Builder。判断の分かれ目をまとめます。2026.10.27ユースケース × インパクトのロングテールで道具を使い分けるイメージ

3. 個人の仕事は Cowork に任せる

Copilot Cowork のコストは賄えるのか ― Power Platform の環境整備より先に Cowork を開放すべき理由「従量課金を社員にオンにすると高くつく」は本当でしょうか。Copilot Studio をエンドユーザーに開放するための環境整備の時間と費用と比べると、Cowork はコスト管理だけで始められ、学習コストも小さいです。100 人で試して予算を出し、段階的に広げる進め方をまとめます。2026.10.27Power Platform の環境整備と、すぐに使える Cowork の比較

4. 業務システムを作り直して、外注費を減らす

Code Apps で「SaaS 製造」― 買っているシステムを作り直してコストを下げる試算の考え方毎年払う SaaS の利用料や委託の保守費を、GitHub Copilot と Power Apps の Code Apps で作ったアプリに置き換える「SaaS 製造」。対象にするシステムの見分け方、インフラと守りを任せられる理由、最近の Web の侵害、Premium を土台にしたコストの試算と KPI の優先順位を、グラフと例で紹介します。2026.10.27買っている SaaS を、自分たちで作ったアプリに置き換えてコストを下げるイメージ

5. 開発標準で、品質のそろったアプリを作る

AI ファースト開発標準で始める Code Apps 開発 ― 外注費の削減を内製で実現する手法(2026 年 10 月版)GitHub で公開している AI ファースト開発標準を、2026 年 10 月の内容で解説します。「クイックスタートして」から始める開発の流れ、27 のスキルと 20 の業務サンプル、管理者と開発者の準備、AI CoE が自社の標準として持つ方法を、外注費の削減・Code Apps とのつながりとあわせて図で紹介します。2026.08.12

6. 費用の仕組みを押さえる

Copilot Credits のライセンスガイドを読み解く ― 買い方・価格・消費レート・含まれる範囲(2026 年 10 月版)Microsoft の Copilot Credits ガイドに沿って、4 つの買い方と価格、機能ごとの消費レート、Microsoft 365 Copilot に含まれる範囲、使い切ったときの動き、AI Builder からの移行をまとめます。2026.10.26Copilot Credits が複数の AI のサービスで共通に使われるイメージ

7. パートナー企業とどう組むか

内製を進めるとき、パートナー企業に何を頼み、どう組むか(FDE と内製の支援の違い、顧問の形)は、こちらにまとめました。パートナー企業の方にも読んでいただきたい記事です。

AI CoE の内製化で、パートナー企業はどうすればいいのか ― 人月から「顧問」へユーザー企業の AI CoE が内製を始めると、多重下請けと人月のビジネスは縮みます。一方で、AI CoE の立ち上げ支援、Cowork スキルハッカソン、レビューや保守の「顧問」のビジネスが生まれます。FDE との違い、フルスタックビルダー、サブスクリプションの指標を図と例で紹介します。2026.10.27多重下請けから、複数の企業を支える顧問のパートナーへ変わるイメージ

8. セキュリティの主権を取り戻す

内製でも委託でも、何をもって「安全」とするかは AI CoE が持ちます。相次ぐ個人情報の漏えいの事例から、ID 管理を Entra ID に任せる考え方と、自社のシステムに当てるテストケースをまとめました。

相次ぐ個人情報漏えいから考える ― 巨人の肩に乗り、システムの「主権」を取り戻す2026 年秋に相次いだ個人情報の漏えいを、社名を伏せて業種ごとに整理しました。ID 管理を自前で作らず Entra ID に任せること、自社の開発標準とテストケースを持つこと、継続して運用することを、事例とテストケースとともに解説します。AI CoE が担う役割にもつなげます。2026.10.28

メモ

環境の準備では、Dataverse for Teams 環境と開発者環境の変更にも注意が必要です。期限とやることはこちらの記事にまとめました。

まとめ

  • AI CoE は、戦略・ガバナンス・標準・人材育成に加えて、内製開発でお金に見える効果を出す組織になります。
  • 調査では、AI への投資とコードを書く AI は広がっていますが、作る人は足りず、価値もまだ見えていません。
  • 本部 AI CoE が標準・基盤・育成を持ち、事業部 AI CoE が自分の予算に載っている外注費を、自分で内製して減らす形が重要になります。
  • ジャーニーは、立ち上げ → 棚卸し → プロトタイプ → 1 つ目の展開 → 事業部へ広げる、の 5 つのステップです。
  • 記事は、外注費 → 道具の使い分け → Cowork → SaaS 製造 → 開発標準 → 費用、の順に読むと、全体がつながります。
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