ユーザー企業の AI CoE が、外注費を減らすために内製を始めています。では、これまでシステムを受託してきたパートナー企業は、どうしたらよいのでしょうか。
結論から書きます。工数を切り売りする人月のビジネスは縮みます。一方で、内製を支える「顧問」のビジネスが生まれます。この記事では、何が変わり、パートナー企業がどちらの道を選べるのかを、図と例でまとめます。
- AI CoE の内製で、多重下請けの産業構造がどう変わるか
- 減るビジネスと、増えるビジネス
- AI CoE のプロセスのどこを支援するか(プロセス図)
- FDE(プロトタイプして納める)と、内製の支援のどちらを選ぶか
- 「フルスタックビルダー」による顧問のビジネスモデル
- パートナー企業の成功の指標は、人月からサブスクリプションへ
メモ
この記事は、ユーザー企業の AI CoE とパートナー企業の関係について、私の考えをまとめたものです。AI CoE の全体像はこちらの記事にあります。
多重下請けの構造が崩れる
これまでのシステム開発は、元請けが受けて、一次・二次の下請けに分けて作る、多段階の構造でした。ユーザー企業は工数(人月)に対価を払い、各社が工数を積み上げて売上にしてきました。
AI CoE が内製を始めると、この構造の土台が変わります。GitHub Copilot と開発標準で、ユーザー企業の少ない人数でもアプリを作れるようになるからです。
工数の切り売りから、価値への対価へ
AI 駆動の開発では、同じものを作る時間が大きく縮みます。時間で値段を決めると、AI でうまく作るほど売上が減るという矛盾が起きます。
だから、対価の決め方が変わります。かかった時間ではなく、生み出した価値(外注費の削減、立ち上げの速さ、品質、人が育つこと)に対価を払ってもらうモデルです。そのためには、まずお客様の KPI を知り、それを同じ目標にすることが出発点になります。
| これまで(人月) | これから(価値) | |
|---|---|---|
| 何に払うか | かかった工数 | 生み出した価値・継続して使えるサービス |
| AI で速く作ると | 売上が減る | 同じ人数でより多くの顧客を支えられる |
| 契約 | 案件ごとの請負・準委任 | 月額の顧問・サービス |
| 強み | 人数・体制 | 知見・開発標準・個人の実績 |
減るビジネスと、増えるビジネス
減るのは、仕様を受けて作って納める、工数の積み上げのビジネスです。一方で、内製するユーザー企業を支える仕事が増えます。
IT 部門向け:AI CoE の立ち上げ支援
AI CoE を作っても、最初の一歩でつまずく会社は多いです。そこを支えるメニューです。
- 本部 AI CoE の役割と KPI の設計(外注費の削減を 1 番目に)
- 外注費の棚卸しと、内製する候補の選び方
- 環境・ライセンス・ガバナンスの整理
- 開発標準の導入と、自社の標準への作り替え
- 経営に説明するためのプロトタイプづくりの伴走
ビジネス部門向け:Cowork スキルハッカソンなどのイベント支援
現場の人が、自分の仕事を Copilot Cowork のスキルにするハッカソンです。企画・運営・審査・振り返りまでを支援します。
GitHub – geekfujiwara/copilot-cowork-skills: Reusable, compliance-reviewed skills for Copilot CoworkReusable, compliance-reviewed skills for Copilot Cowork – geekfujiwara/copilot-cowork-skills内製チームの中に入る「プロジェクト支援チーム」
時間で精算するのではなく、ユーザー企業の内製チームに、いつも一緒にいる支援です。AI CoE の一員のように、プロジェクト全体を支えます。作るのはユーザー企業で、パートナー企業は設計の相談、レビュー、詰まったときの手助けを受け持ちます。
プロセスのどこを支援するか
増えるビジネスを、ユーザー企業の AI CoE のプロセスに重ねると、次のようになります。どの段階でも、お客様の KPI を知り、それを同じ目標にするのが前提です。
| STEP | AI CoE のプロセス | パートナー企業の支援 | 一緒に追う KPI の例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 立ち上げ | 役割と KPI の設計、環境・ライセンス・ガバナンスの整理 | KPI が決まり、経営の合意がとれたか |
| 2 | 棚卸し | 外注費の一覧から、内製する候補を選ぶ伴走 | 削減できる外注費の見込み額 |
| 3 | プロトタイプ | パートナーの環境で作って見せ、経営への説明を手伝う | 経営の承認、プロトタイプまでの日数 |
| 4 | 1 つ目の展開 | 開発標準の導入、内製チームに入って開発を伴走 | 外注費の削減額、使う人の数 |
| 5 | 事業部へ | Cowork スキルハッカソン、作る人の育成 | 内製したアプリ・スキルの数、育った人の数 |
| 6 | 運用 | アプリ・エージェントのレビュー、内製アプリの保守 | 障害の数、改善のリリースの数 |
お客様の KPI を、自分たちの目標にする
顧問の価値は、作業の量ではなく、お客様の成果で測られます。最初にお客様の KPI を知り、それを同じ目標にすること。外注費の削減額が増えれば、顧問としての価値も上がります。目標が同じなら、AI で速く作るほど、お客様にもパートナー企業にも良い結果になります。
FDE か、内製の支援か
最近よく聞く FDE(Forward Deployed Engineer)は、パートナー企業のエンジニアがユーザー企業の現場に入り、プロトタイプを作って納める形です。速く成果が出る一方で、作る力はパートナー企業の側に残ります。
これは、ユーザー企業が自分で人材を育てていく AI CoE の内製とは、反対の方向のアプローチです。どちらが正解というわけではありません。内製を進めるのか、作ってもらって使う側でいるのかは、その会社の人材と KPI に関わる戦略です。企業の文化とあわせて選びましょう。
| 内製の支援(AI CoE が作る) | FDE(パートナーが作って納める) | |
|---|---|---|
| 作る力が残る場所 | ユーザー企業 | パートナー企業 |
| 速さ | 最初はゆっくり、育つほど速い | 最初から速い |
| 費用 | 育成と内製の人件費。外注費が下がる | 成果に対する対価が続く |
| 向いている KPI | 外注費の削減、人材育成、内製の生産性 | 早く成果を出すこと、本業への集中 |
合っている企業の文化の例
| 内製の支援が合う文化 | FDE が合う文化 |
|---|---|
| 現場で改善を重ねる文化がある(製造の改善活動、店舗の工夫など) | IT を競争力の中心に置かず、本業に集中したい |
| 自分たちの業務を、自分たちで変えたい人がいる | 短い期間で成果を見せる必要がある |
| 人を育てることに投資する(研修、社内の勉強会) | 人の異動が多く、作る人を社内に残しにくい |
| 業務の変化が速く、外に頼むと間に合わない | 専門の人材を持たない方針で、外の力を使い分ける |
| 失敗を許して、小さく試す | 決まった品質を、決まった期日に求める |
1 つの会社の中でも、部門によって合う形が違うことがあります。事業部 AI CoE ごとに、どちらの形にするかを決めてもよいのです。
パートナー企業の 2 つの道
パートナー企業にも、選ぶ道が 2 つあります。
道 B の始め方:まずはパートナーの環境で作って見せる
道 B で大事なのは、いち早くユーザー企業のプロセスに入り込み、経験を積み始めることです。そのとき、次の進め方が効きます。
- お客様の KPI を知り、それを同じ目標にします。 外注費の削減額など、お客様が経営に約束している数字を、最初に一緒に確かめます。
- 顧客のデータは、まず使いません。 架空のデータや公開の情報で作ります。
- 環境の準備にハードルがあるときは、パートナー企業の環境で作って見せます。 動くものを見せると、インパクトが伝わります。
- デモを見ながら、一緒に要件を固めます。 文書のやりとりより、ずっと速く進みます。
- ガバナンスの整理が終わったら、ユーザー企業の環境に移します。
パートナー企業と組むメリット
ユーザー企業の環境やガバナンスの整理がまだでも、パートナー企業の環境で始められます。スピードが上がり、デモでのコミュニケーションも早くなります。これは、ユーザー企業がパートナー企業と協業する大きなメリットです。
知見を、組織の開発標準にためる
道 B で積んだ経験は、パートナー企業の開発標準としてためます。スキル、テンプレート、レビューの観点、つまずきやすい点です。メンバーはその標準を使って、次の企業に、より速く、新しい価値を提案できます。
AI ファースト開発標準で始める Code Apps 開発 ― 外注費の削減を内製で実現する手法(2026 年 10 月版)GitHub で公開している AI ファースト開発標準を、2026 年 10 月の内容で解説します。「クイックスタートして」から始める開発の流れ、27 のスキルと 20 の業務サンプル、管理者と開発者の準備、AI CoE が自社の標準として持つ方法を、外注費の削減・Code Apps とのつながりとあわせて図で紹介します。
フルスタックビルダーの「顧問」になる
これまでの開発のプロジェクトには、PMO、機能のコンサルタント、開発者が、それぞれ別にいました。AI を使えば、この 3 つの役割を 1 人が担う「フルスタックビルダー」が成り立ちます。
| これまでの役割 | フルスタックビルダーが AI を使ってすること |
|---|---|
| PMO | 進め方の設計、課題の管理、経営への説明の資料づくり |
| 機能のコンサルタント | 業務の理解、要件の整理、製品の機能の選び方 |
| 開発者 | GitHub Copilot と開発標準での、プロトタイプとレビュー |
このフルスタックビルダーを、1 社に固定で置くのではなく、複数の企業にサービスとして提供します。イメージは、税理士の税務顧問です。毎月決まった顧問料で、困ったときに相談でき、定期的に見てもらえる。必要なときは、もっと深く入ってもらう。
そうなると、ブランドも変わります。「大手の元請けだから頼む」から、「この人に見てもらいたいから頼む」へ。企業のブランドから、個人のブランドになっていきます。
さらに生まれる新しいビジネス
顧問の形になると、内製するユーザー企業の周りに、新しい仕事が生まれます。
| ビジネス | 中身 |
|---|---|
| 開発標準のレビュー | ユーザー企業が作った自社の開発標準を、プロの開発組織の目で見る |
| アプリのレビュー | 内製したアプリの設計・セキュリティ・性能を確かめる |
| エージェントのレビュー | Copilot Studio のエージェントや Cowork のスキルの、権限・外部への作用・品質を確かめる |
| ハッカソンの顧問 | Cowork スキルハッカソンの進め方、審査の基準、人材育成につなげる方法を助言する |
| 内製アプリの保守 | ユーザー企業が作ったアプリを、決まった範囲で保守するサービス |
例:Cowork スキルハッカソンの審査の基準
ハッカソンの顧問では、表彰の基準を一緒に決めます。人材育成につながる基準にするのがポイントです。
| 観点 | 見るところ | 配点の例 |
|---|---|---|
| 業務へのインパクト | 減る時間や外注費が、数字で示せるか | 30 |
| 再利用できるか | ほかの人や部署でも使えるように、汎用化されているか | 20 |
| 安全か | 送信や共有など外への作用は、人が確かめる作りか。権限の範囲は最小か | 20 |
| 動くか | 実際の仕事で、最後まで動くか | 15 |
| 人に伝わるか | 使い方を説明でき、ほかの人が改善を続けられるか | 15 |
人材育成につなげるコツ
1 位だけを決めるのではなく、上位のスキルを AI CoE が「全社のスキル」として配り、作った人を次のハッカソンのメンターにします。作った人が教える側に回ると、育成が続きます。
成功の指標は、人月からサブスクリプションへ
ビジネスの形が変わると、パートナー企業の成功の指標も変わります。
| 人月のビジネスの指標 | サブスクリプションのような指標 | |
|---|---|---|
| 売上 | 稼働した人月 × 単価 | 月ごとの継続の売上(MRR)、年間(ARR) |
| 効率 | 稼働率 | 1 人のビルダーが支える顧問先の数 |
| 健全さ | 案件の受注残 | 継続率・解約率、既存の顧客の売上の伸び(NRR) |
| 顧客の価値 | 納品したかどうか | 顧客の外注費の削減額、内製したアプリの数、育った人の数 |
例:人月のエンジニアと、顧問のビルダー
あくまで考え方の例です。
人月のエンジニアは、1 社に常駐すると、売上は時間で頭打ちになります。顧問のビルダーは、AI と開発標準で 1 社あたりの手間を小さくし、顧問先を増やすほど売上が積み上がります。顧問先が続く限り、毎月の売上も続きます。
まとめ
- AI CoE の内製で、多重下請けと工数の切り売りのビジネスは縮みます。対価は、時間ではなく価値に払われるようになります。
- 増えるのは、AI CoE の立ち上げ支援、Cowork スキルハッカソンなどのイベント支援、内製チームの中に入るプロジェクト支援です。
- どの段階の支援でも、お客様の KPI を知り、それを同じ目標にします。
- FDE と内製の支援は、反対の方向のアプローチです。どちらが正解ではなく、ユーザー企業の人材と KPI と文化で選びます。
- 内製の流れに乗るなら、まずパートナーの環境で作って見せ、知見を開発標準にため、フルスタックビルダーの顧問として複数の企業に提供します。
- 開発標準・アプリ・エージェントのレビュー、ハッカソンの顧問、内製アプリの保守といった、新しいビジネスも生まれます。
- 成功の指標は、人月と稼働率から、継続の売上・継続率・顧客の外注費の削減額へ変わります。
ユーザー企業側の AI CoE の進め方は、こちらの記事にまとめました。
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AI CoE の最初の KPI は「外注費の削減」― 現場のユースケースから始めないAI を使った開発で、AI CoE は自社でアプリを作れるようになりました。最初にやるべきことは、現場からユースケースを集めることではありません。外注費を棚卸しし、内製できるものから削減額を経営に見せることです。
内製で作り直すシステムの選び方とコストの試算、個人の仕事を任せる Cowork の始め方は、こちらです。
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